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福島地方裁判所 昭和24年(行)102号 判決

原告 佐藤清左衛門

被告 平野村農地委員会・福島県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告平野村農地委員会が昭和二十四年四月五日別紙物件目録記載の土地に対し定めた買収計画を取り消す。被告福島県農地委員会が昭和二十四年八月十五日附で右買収計画に対する訴願についてなした裁決を取り消す。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、被告平野村農地委員会(以下村農委という。)は、昭和二十四年四月五日自作農創設特別措置法(以下措置法という。)第六条の二、第三条の規定に該当するものとして、別紙物件目録記載の原告所有農地につき、買収計画を樹立公告した。原告は、これに異議があつたので、被告村農委、被告福島県農地委員会(以下県農委という。)に対し、それぞれ異議、訴願の申立をしたが、いずれも棄却され、同年九月十四日右裁決書の送付を受けた。右買収計画には次のような違法がある。

本件農地は、原告宅附近にある果樹園で、従前から原告の自作地であつたが、昭和十三年十二月原告の長男入営後、原告とともに農耕に従事していた原告の二男が、昭和十六年一月召集されたので、子供等が帰還して自作できるまでという約束で、訴外斎藤丑松に一時賃貸した。ところが、昭和二十年九月長男が復員したので、原告は、同年十一月十日丑松に対し、右賃貸借の解約を申し入れたところ、同人は、こゝろよくこれを承諾した。然るに、昭和二十一年三月十日ごろ、丑松の雇人が、本件畑の果樹の手入をしたので、原告が、これを制止したところ、丑松の長男斎藤宇一は、居町飯坂町農業会に、本件畑の小作関係につき、あつ旋方を願い出たので、同年同月二十九日平野村農業会に、原告及び宇一が呼び出され、関係者協議の結果、同年十月十五日までは、丑松において、桃及び同人の希望するりんご樹五本の果樹を採取し、且つ間作を収穫するが、その余のりんご樹の果樹は、原告が採取すること、同年同月十六日からは全部原告の自作とすることの約旨で、円満に合意解約が成立し、前記十六日から今日まで、原告が自作してきた。仮に、一時賃貸借でなく、且つ合意解約でないとしても、昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いて買収することは、違法であるから、本件買収計画及び裁決の取消を求めるため、本訴に及んだのであると述べた。(証拠省略)

被告等は、主文同旨の判決を求め、原告主張の事実中、被告村農委が、昭和二十四年四月五日原告主張のような買収計画を公告したところ、原告が、これに対し異議の申立や訴願をしたが、いずれも棄却され、訴願に対する裁決書の謄本が同年九月十四日原告に送付されたこと、原告の長男が、昭和十三年十二月入営し、昭和二十年九月応召から復員帰宅したこと、原告の二男が昭和十六年一月入営(応召ではない。)したこと、昭和十六年二月斎藤宇一が、原告から本件畑を賃貸耕作したこと、昭和二十一年二月原告が宇一に対し右畑の返地を要求したこと、同年三月下旬ごろ宇一方で、右畑のりんごのせん定をしていたとき、原告から差し止められたこと及び宇一が飯坂町農業会にあつ旋を依頼したところ、三月二十九日平野村農業会に原告と宇一とが呼び出され、関係者立会の上折衝の結果、宇一において同年十月十五日限り右畑を返地することを承諾したことは、これを認めるが、その余の事実を否認する。本件畑は、昭和十六年二月斎藤宇一が、賃料は、年三十五円で、いつまでも小作させるとの約束で、原告から賃借したものである。当時右畑には約二十本くらいのりんごの樹があつたが、大体老樹で、収穫が少なかつたので、宇一は、廃樹にひとしい七本を除去し、残つた樹の手入をし、且つ自費で、新に五年生十本、四年生七本計十七本のりんごの樹を補植し、その下作に大豆や甘藷をつくつた。原告主張のように一時賃貸借であるなら、宇一は、五年先き、十年先きでなければ、収穫の見込めないりんごの樹を、自費で植えるはずはない。昭和二十年十一月十日本件賃貸借の合意解約が成立したことはない。原告は、昭和二十一年二月突然返地を要求したが、宇一は、家族十二人を擁する専業農家で、本件畑を除くと、耕地は、田七畝歩、畑七反十四歩で、どうしても、原告の要求に応じかねたので、これを拒つた。ところが、同年三月下旬ごろ、りんごの樹のせん定をしていたとき、原告から、かなり強硬な態度で、七月三十日までに取りあげると威されたので、宇一は、おそれて、前示のように、あつ旋を依頼した結果、平野村農業会に呼び出されたのだが、原告は、平野村農業会長中村顕宣、飯坂町農業会長代理堀切隆両氏の説得にもかかわらず、頗る強硬であつたので、小作人の悲しさに、宇一は、余儀なく返地を承諾したのであるが、この返地協定は、宇一が、本件畑に植えた十七本のりんご樹については、何等の補償方法も講じられない片手落なものであつた。これを要するに、昭和二十四年三月三十一日宇一からの請求によつて定められた本件そ及買収計画は適法であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

本件買収計画、異議、訴願に関する原告主張事実は、総べて当事者間に争がない。

よつて、原告主張の賃貸借の当事者及びその約旨について案ずるに、証人紺野金作及び斎藤宇一の各証言によると、原告は、昭和十六年二月ごろ、本件畑を、賃料は一年につき金三十五円で、期間の定なく斎藤丑松に賃貸したことを認めるに十分である。原告本人尋問の結果中、右賃貸借が一時的のものであつたとの供述部分は、前掲各証言と対照して信用しがたく、甲第一号証、証人堀切隆、中村顕宣の各証言では、未だ前記認定を左右することはできない。

原告は、本件賃貸借は、昭和二十年十一月十日合意解約されたと主張するが、右事実を認めしめるような証拠はない。

ところが、昭和二十一年三月二十九日、平野村農業会で、原告と丑松との間に、同年十月十五日限り本件畑を原告に返還する旨の合意が成立したことは、当事者間に争がなく、(もつとも、被告等は右合意解約は、原告と宇一との間に成立したものであると主張するが、証人堀切隆、中村顕宣の各証言により、右合意は、丑松の代理人である長男宇一との間に成立したものと認定する。)当事者弁論の全趣旨によると、同年同月十六日からは、丑松が本件畑の耕作をやめ、原告においてこれを自作してきたことが明らかである。

次に右合意解約が適法且つ正当であるかどうかについて考えてみるに、証人斎藤宇一の証言によると、原告は、その際、強硬な態度で、ひたすらに、返地を強要し、あつ旋の衝にあたつた中村顕宣の言にも、殆んど耳をかさず、ついには同人と激論をまじえるにいたり、宇一としては、到底原告から、それ以上の譲歩を期待することは不可能であると観念し、賃借後、桃やりんごの樹を植えて丹誠してきた本件畑を涙をのんで返還することを承諾したものであることが認められる。それゆえ、宇一としては、不満やる方ない心情で、やむなく返地を決意したものであることは、明らかであるが、宇一の前記合意解約の意思表示が、原告の強迫によつてなされたものとまで、認定せしめるような証拠はない。また当時施行されていた農地調整法の規定によれば、農地の賃貸借は、当事者の合意のみで解約することができたのであるから、右のように本件賃貸借の合意解約が成立した以上、それは適法なものといわなければならない。ところで、証人堀切隆、紺野金作、斎藤宇一の各証言、原告本人及び被告村農委代表者の各供述を総合すると、斎藤丑松方は、果樹を主体とする専業農家であり、右合意解約成立当時、その家族は十二名、うち農業従事者五名、丑松が高齢であつたため、その長男宇一が主体となつて立ち働き、その耕作反別は、田七畝歩、畑は、本件畑を除いて約七反歩(うち果樹園三反歩)で、本件畑を失えば、一家の生活状態が著しくわるくなるのに反し、原告方は、居村有数の財産家で、家族十二名、うち農業従事者六名、自作反別三町五反くらいで、居村の経営基準面積を超え、ほかに山林二町歩を所有し、本件畑の如きは、その営農上必ずしも不可欠のものでないことが認められる。右に認定した事実から判断すると、右合意解約は、到底正当なものと認めることはできない。もつとも証人堀切隆及び斎藤宇一の各証言を総合すると、丑松方では、その後昭和二十二年になつてから、他の二名の貸主に対し、合計三反五畝歩ほどの畑を返地したことが認められるが、前掲斎藤証人の証言によれば、右は、いずれも、一時賃貸を受けたものであつたから、宇一において約旨に従い返地したものであることが明らかであるから、右返地の事実は、本件合意解約が正当でないとの前記認定を妨げるものではない。従つて、被告村農委の定めた本件そ及買収計画は、措置法第六条の二第一項第一号の規定に違反しないことが明らかである。

原告は、仮に本件賃貸借が一時賃貸借でなく、且つ合意解約でないとしても、本件そ及買収計画は違法であると主張するが、その違法な理由については、何等の主張もない。

最後に、被告等は、本件そ及買収計画は、斎藤宇一からのその旨の請求に基いて定められたものであると主張するから、この点について考えてみる。本件畑の賃借人は、宇一ではなく、その父丑松であることは、先きに認定したとおりである。ところが、措置法第六条の二第一項本文に掲げる相続人とは、既に相続をした者を指称し、相続人の地位にあるものは、これを包含しないものと解するから、未だ相続をしなかつた宇一は、同項所定の請求をすることができなかつたわけである。しかし同法第六条の五の規定から推考すると、請求権のないものの請求に基いて定められたそ及買収計画であつても、他に違法の点があれば格別、ただ単にそれだけの理由では、これを違法とすることはできないものと解するから、本件そ及買収計画が、宇一の請求に基いて定められたものであつても、それゆえにこれを違法ということはできない。

以上に認定するとおり、本件買収計画及び裁決を違法と認めることはできないから、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 黒江清 唐松寛)

(目録省略)

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